アメリカの健康保険制度に風穴をあけたスタートアップ「オスカー」

「インシュアテック」(Insurtech)という言葉をご存知でしょうか。

保険(Insurance)とテクノロジを掛け合わせた造語で、IT技術を用いて効率や収益性をあげたり、今までにない保険サービスを創出するシステムやモデルのことを指します。

インシュアテックに大資本がはいってきた

スマートフォンのアプリインターフェース、ウェラブルデバイス、オンラインツール、オンラインによる契約プロセスの開発などにより、カスタマーデータを正しく分析し、消費者が求める保険を的確、適正な価格で提供することが目的です。

保険は金融分野の中でも、もっとも古いビジネスのひとつです。その長い歴史と複雑な保険の規約、契約により従来からのシステムからの脱却が難しい業界とだといわれており、プレイヤーも大手が占め、新規参入が難しいというのが定説でした。

しかし、銀行にフィンテックの波が押し寄せているように、保険業界でもまたテクノロジの進歩により、構造変革の直中にいます。

長年にわたってインシュアテックの動向に注視してきた有料情報サービスのCBインサイツによると、インシュアテックに顕著な資本投下が見られたのが2011年(14万ドル/約1,500万円)で、2015年には267万ドル(約2億9500万円)と驚異的な伸びを見せています。

特徴的なのは、構造変革の中心を担っているのが、スタートアップであることです。総合リサーチ会社アクセンチュアによると、2016年現在、44%の保険業者が同業界のスタートアップと組んでデジタルイニチアティブを進めるとしています。

一方、異業界のスタートアップとの共同は31%で、消極的な態度が見て取れます。

今回は、外部からの保険業界に参入し、最も成功しているスタートアップのひとつ、アメリカ・ニューヨークを拠点にする「オスカー(Oscar)」を取り上げます。

アメリカのスタートアップ「オスカー」とは?

オスカーは医療保険のサービスを提供するスタートアップで、2012年、ニューヨークで設立されます。

創立者は、Joshua Kushner氏、Kevin Nazemi氏、Mario Schlosser氏。Kushner氏とMario Schlosser氏は、ブラジル最大のコンピューターゲーム会社を立ち上げるなど異色の経歴の持ち主です。

Mario Schlosser氏は、CBインサイツが主催したコンフェレンスでオスカーを立ち上げるきっかけとなったのは、奥さんが妊娠した時だといいます。

改めて医療保険がいかに複雑で、利用者が路頭に迷うようなシステムを保険会社が放置していることに憤りを感じたそう。

どこででも国民が等しく医療サービスが受けられる国民皆保険制度が存在する日本とは違い、アメリカの医療保険は民間企業によって運営されています。

公的医療保険制度もありますが、障がい者や高齢者、低所得者など、受給資格者が限られています。保険会社によって保険料をはじめとして、プランによってカバーされる医療、自己負担額、免責額などが違い、手続きも複雑で、しかも高額です。

2018年3月、ハーバード大学が、医療費がコスト高になる原因は、医療システムの管理費、薬剤費、医師の高額給与が主な要因であると発表しました。管理費は、他国では医療費総額の1~3%なのに対し、アメリカでは8%を占めるといいます。OECDの調査によると、先進35カ国中、医療費の支出はGDP比で18%とトップです。

Mario Schlosser氏は、こんなに支出が大きい産業のシステムがユーザーフレンドリーではない状態はおかしいといいます。

ユーザーの健康維持も組み入れて保険料を抑える

オスカーが注目されるのは、ユーザーフレンドリーなインターフェースのみならず、保険とともに契約者の健康管理にも関与することで、医療費、ひいては保険金の請求件数を抑え、加入しやすい保険料を目指していることです。

加入者は、ケアガイドと看護士のチームによるコンセルジュサービス、24時間/7日の無料ドクターコール(15分間無料)、アマゾンギフトカードが貯まるステップトラッキング(万歩計)などが含まれています。

自分にあったプラン探しをチャットによるコンセルジュとの相談できるほか、ドクターとのアポもとれます。

ドクターはリスト化されていて、専門分野のみならず、レーティングや近隣などの地理的な条件から選ぶこともできます。処方箋、支払い、自己負担額のチェック、過去の往診や処方などをタイムラインで一括管理できます。

スマートフォンやパソコンですべて完結させる利便性、かつ、心配になった時に医師へ相談できるサービスや、健康管理まで面倒を見てくれるという、まさに痒いところに手が届くサービスです。2018年の第一四半期の総保険料が3億ドル(約331億円)に達し、3月、1億6500万ドル(約182億円)の資金調達を果たしたと発表しました。

スタートアップとしては驚異的な額です。現在は個人のみならず、企業にもサービスを展開しています。

インシュアテックは日本でも広がるか?

オスカーは14年の医療保険制度改革(オバマケア)の追い風を受けて一気に広まりました。

現在のトランプ政権のオバマケア見直しにより逆風が吹くかと思いきや、ニューヨーク、テキサス、ニュージャージー、テネシー、カリフォルニアの拡大を図るほか、2019年にフロリダ、アリゾナ、ミシガンでもサービスを展開する予定です。加入者も2017年の10万人から2018年は25万と増加しています。Mario Schlosser氏は『Forbes』で語っています。

「我々のビジネス環境に不確実な要素があることは事実ですが、オスカーの長期的なビジョンは“シンプルで簡単で、手頃な保険システム”で、それは消費者が望んでいることです。望まれる限り、新しい環境に耐え、適応することができるのです」。

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